;---------------------------------------------------------------------------- ;タイトル: ; 「ドメスティック・レボリューション・ゼロ」 ; 「Domestic Revolution Zero」 ;---------------------------------------------------------------------------- ;-------------------------------------- ;タイトル画面 ;-------------------------------------- ;-------------------------------------- *scene_p|序章 ;-------------------------------------- 序章 〜オレは間違った選択をしたのか〜 ;-------------------------------------- ;背景_探偵事務所 ;-------------------------------------- オレの名はサブロー。芦屋サブローだ。 長男のくせにサブローと名付けられたことから察するに、生まれたときから大して期待はされていなかったのだろう。 そんなオレは閉鎖的な田舎暮らしに嫌気が差し、高校卒業と同時に実家を飛び出した。 それから10年余りが過ぎた。 その間に得たジョブスキルは、家出ネコの捜索やヒト探し。 あと浮気調査も得意になったな。 最近では目を見ただけで浮気してるか否かは分かってしまう。 人物観察に関してはかなりのものだと自負している。 ああそうだ。 察しの通り、オレは探偵というか興信所でバイトをしている。 “正社員”ではない“アルバイト”だ。28歳になってまだバイトだ。 噂によると受付の24歳派遣社員の清水嬢より薄給らしい。 これは少し堪えた。 このままで良いのかと思わなくもないが、今更田舎で家業を継ぐのはごめんだ。 というかオレはいまひとつ家業の実態を知らない。 親父は偉そうにしていたが、実質ニートみたいなものだった。 一応修行とやらで毎日鍛えられたが、Z戦士じゃないんだからいくら身体を鍛えたところで宇宙人が攻めてくるわけでもない。 つまり無駄な努力だ。 そんなわけで、オレは18になったと同時に家を出た。 だがどういうわけかオレの居所を突き止めた父親から一通の手紙が届いた。 封筒の目立つ位置に“破棄厳禁”と達者な字で書かれていた。 余り見たくはなかったが、鬼気迫る宛名に呪詛めいたものを感じたので、オレは開封し読まざるをえなかった。 多分破り捨てていたら文字通り呪われていただろう。 嘘だろうと思うだろうが本当の話だ。 つまりオレの家計は代々そういう特殊な力を持っている。 オレはなんというか才能が無いらしく、せいぜい気脈をあやつり相手の血行を悪化させたり良くしたり、整体師まがいの能力があるにすぎない。 もうひとつ能力はあるが、それはいわゆるマジックポイントが足りません状態で、オレの手に余る代物だった。 若気の至りで一度だけ使ったら死にかけた。それ以来二度と使うまいと固く封印している。 話を戻そう。 実家からの手紙には、そろそろ式の段取りを決めるので戻って来いというものだった。 式とはいったいなんなのだ? そうクビを捻ったが、手紙を読み進めると、それが結婚式であることが判明した。 どうやらオレは結婚するらしい。 オレが結婚? 誰と? というか許婚だと! 確かに子供頃に許婚が居るみたいなことを聞いた記憶はある。 だがもう時効だろう。オレに許婚がいたとしても、相手ももういい歳だろう。 まさかオレを帰郷を信じて待ってるとか? 嘘だろ。田舎は嫁不足だから村の誰かと結婚すればいいだろ! あれか、ちょっと容姿や性格に問題があったりするのか。こういう人って意外と地元の名士の娘だったりするから嫁がせないわけにはいかないから、外でブラブラしてるオレなら騙せるだろうと思ったわけじゃあるまいな? 親父たちの魂胆が読めたぜ。こんな婚約破棄だ破棄! 三行半突きつけてやる! オレは怒りに我を忘れていた。 でなければ村に戻ろうなどと思わなかっただろう。 かくしてオレは、大人たちの汚い陰謀渦巻く村社会へと再び戻ることになった。 To be continued ;-------------------------------------- ;アイキャッチ ;-------------------------------------- ;-------------------------------------- *scene_1|第一章 ;-------------------------------------- 第一章 〜再会〜 ;-------------------------------------- ;背景_山のふもと ;-------------------------------------- 久しぶりに帰ってきた地元。 懐かしいと思うと同時に、代わり映え無さ過ぎてうんざりした。 どこを見ても山と木々に覆われており、この先に村があるわけだが、そこに到達するまでの道のりが長い。 確か唯一無二の車道があったと思うのだが、舗装はされていないし標識もない。 それになにより、どこにあるのかよく覚えていない。 そこから行かないと確実に迷ってしまうだろう。 というかすでに迷っている。 無謀にも山道から入山してしまい、適当に歩いてしまったのがいけなかった。 山を舐めていた。 昔はすいすいと行けたような気がしたのだがな。 10年という月日は、人の記憶力を奪うには充分の年月だと思い知らされた。 さてどうするか。 慌てても仕方が無いので一服することにした。 ポケットからタバコを取り出し、ライターに火を灯そうとしたときのことだ。 ;-------------------------------------- ;SE_ガサガサ音 ;-------------------------------------- いきなり目の前に、人間が降ってきた。 ;立ち絵_妹_ムス顔 女の子「この山は禁煙なんだよ!」 唐突に現れた少女は、オレの手に中にあるタバコを指差し、高らかに宣言した。 サブロー「そうか禁煙か。どこでなら吸える?」 女の子「山の外なら吸ってもいいよ」 サブロー「そうか。なら帰るとしよう。オマエは芦屋村の人間だよな」 女の子「うんそうだよ」 サブロー「だったら芦屋道夏(あしやどうなつ)というオッサンに伝言を頼めるか」 女の子「ん? お兄さんは芦屋村出身なの?」 サブロー「そうだな。ここへは10年ぶりに戻ってきたが、まさか禁煙化の波がこんな田舎の山村にまで広がっているとは夢にも思わなかったよ」 女の子「禁煙は冗談だよ。吸ってもいいよ」 そんなことは言われなくとも分かっている。それよりもオレはここに留まりたくないのだ。 さすがにそのような皮肉を田舎娘に分かれと言うほうが無理だったな。 サブロー「いやもうタバコはいい。それより伝言を頼めるか」 女の子「やだ!」 サブロー「わかった。お駄賃やるから頼むよ。いくら欲しい?」 女の子「いらないよ。それよりお兄さんはどこから来たの?」 サブロー「ここよりは都会で文明的な場所からだ」 女の子「都会か、いいなぁ。わたしも行きたいなぁ」 サブロー「あと数年もすれば行けるだろ」 女の子「そうだね。行けるといいんだけどね」 少し寂しそうに少女はつぶやく。 なにやら事情がありげだな。これ以上深入りするのはよくない。 オレの興信所で鍛えられた鑑識眼がそう訴えている。 サブロー「道すがらでよければ都会のこと話してやるよ。その代わり村まで案内してくれ」 妥協案として、オレは少女にそう申し出た。 女の子「うん。いいよ」 サブロー「ところでオマエの名前はなんていうんだ?」 女の子「わたしの名前?」 サブロー「そうだ」 女の子「お兄さん覚えてないの?」 少女の見た目はせいぜい15、6歳程度。オレが村を出たのは10年前だ。 知り合いだったとしても当時5歳前後の少女の成長した姿を想像するのは難しい。 サブロー「悪いな。オレが村を出たのは10年前だからな」 女の子「わたしは覚えているよ。サブローさんでしょ?」 サブロー「ほう。オレのを名を知っているということは、確かに知り合いだったのかもな。オマエが一方的にオレを知っているということは無いか?」 女の子「お兄ちゃんも知ってると思うよ」 いきなりお兄ちゃんとか、少し馴れ馴れしすぎないか? ということは近所に住んでいた子供なのか? だがクソ田舎で近所に住んでいたのは同年代の男女で、10歳以上歳が離れた知り合いなんて居たか? ……んんっ。待てよ。一人居るな。 サブロー「ひょっとして……」 女の子「思い出した?」 サブロー「思い出したというか、オマエまさか槐(えんじゅ)か?」 槐(えんじゅ)とはオレの妹で、家を飛び出したときの年齢は、確か5歳くらいだった気がする。 そうだ。妹だ。思い出した。 女の子「ピンポーン! や〜〜っと思い出したみたいだねお兄ちゃん」 サブロー「思い出したというか、推理して導き出しただけだ。なにしろ当時の面影とかまるで無いからな」 槐(えんじゅ)「それでどう?」 サブロー「どう? とは?」 槐(えんじゅ)「成長して可愛くなった妹を見た感想とかあるでしょ!」 サブロー「ん。あ〜〜そうだな。大きくなったな」 槐(えんじゅ)「それだけなの?」 サブロー「それだけだ」 まあ母さんに似て綺麗になるだろうなと思う。 それにしてもオレはどうして槐(えんじゅ)のことを忘れていたのだろう。 村のことはなるだけ考えないよう生活してきた。 家族のことも忘れていた。 だが、妹が居たことくらいパッと思い出せてもいいよな。 ひょっとしたら記憶操作でもされていたのかもしれない。 それくらいやりそうな雰囲気はある。 まあいい。とりあえず色々聞きたいことは親父に直接聞けばいい。 槐(えんじゅ)「どうしたのお兄ちゃん」 サブロー「ん、ああ、なんでもない。家に帰ろうか」 槐(えんじゅ)「うん!」 サブロー「ところで槐(えんじゅ)」 槐(えんじゅ)「なぁに?」 サブロー「ここから家までどれくらいかかるんだ?」 槐(えんじゅ)「そうだね。2時間も歩けば着くよ〜」 サブロー「なるほど」 オレはその場に座り込みたくなる衝動を抑え、槐(えんじゅ)の後に付いて歩き始めた。 ;-------------------------------------- ;アイキャッチ ;-------------------------------------- ;-------------------------------------- *scene_2|第二章 ;-------------------------------------- 第二章 〜許婚〜 ;背景_黒 芦屋道夏(あしやどうなつ)。このスイーツのような名前の男が、オレの親父であり、地元では知らないものは居ない名うての術者だ。 正確は岩のように固く、役人のように融通がきかない。典型的な田舎の大将だ。 帰宅したら親父の説教を半日は食らうんだろうな。そう思っていた。 だが実際に帰宅したオレを待ち受けていたのは、優しい母親の笑顔と抱擁だった。 これは拍子抜けといわざるを得ない。 ;背景_障子 ちなみに親父は数日前にぎっくり腰をやってしまい、身動きが取れなくなってしまったらしい。 自分が弱った姿をオレに見せたくないのか、親父との会話は障子越しに行われた。 10年ぶりに親父の気配を読んだが、親父の性格はより意固地な方向へ強化されているみたいだった。 ただ健康が万全でないため、障子の向こう側の親父は非常に気まずそうにしているのが分かった。 親父は家を飛び出したオレを咎めるわけでもなく、かといって歓迎するでもなく、ただひと言だけ―― 道夏「帰ってきたか」 と怒るわけでも喜ぶわけでもなく、穏やかな口調でそう呟いた。 サブロー「呪われるのはイヤだからな」 道夏「相変わらずか」 10年前からなにも成長していないとでも言いたげな口調だった。 実際そうだったんだろう。 色々尋ねたいことはあったが、詳しいことは母さんに聞けという無言のプレッシャーを感じたので、オレは親父との会話をそこで打ち切り、槐(えんじゅ)たちがくつろいでいる居間へと戻った。 ;背景_居間 ;立ち絵_妹_通常 槐(えんじゅ)「あれ? もうお父さんとのお話しは終わったの?」 サブロー「そうだ。詳しいことは母さんに聞けと言ってる気がした」 槐(えんじゅ)「気がしたって、お父さんがそう言ったわけじゃないの?」 サブロー「言ってないが態度で分かる」 槐(えんじゅ)「ふ〜ん。お母さん呼んでこようか?」 サブロー「ああ、頼む」 槐(えんじゅ)は母親を呼びに居間を後にした。 ;立ち絵_消去 しばらく待っていると、母親が居間にやってきた。 ;立ち絵_母_通常 芦屋檀(まゆみ)。彼女がオレの母親だ。 母親は若く見えるが、もう40台後半だ。妹の槐を生む前までは成長が20歳で止まっているのではと思うくらい老けなかった。 詳しいことは知らないが、神宿りと呼ばれる体質らしい。 その神性を子に移譲するまで肉体的な老化はしないとかで、妹を出産後に人並みに老けてきた。それでも神性の残滓みたいなものはあるのか、そのペースは人のそれよりも緩やかで、傍から見ればオレの方が年上に見えなくもないだろう。 檀(まゆみ)「槐ちゃんから聞いたけど、サブローちゃんはパパとちゃんとお話をしなかったの?」 サブロー「忍者じゃあるまいし、障子や襖越しに会話するほど酔狂じゃないんでね」 檀(まゆみ)「パパったらいい歳して恥ずかしがってもう」 サブロー「威厳を保ちたいんだろ? いい大人が下らないプライドばかり肥大させて恥ずかしい」 檀(まゆみ)「ん〜〜。あれでもかなり丸くなったのよ。それにサブローちゃんとは10年ぶりだからなんて声をかけたらいいかわからなかったんじゃないの?」 サブロー「中学生かよ。まあとにかく何も教えてはもらえなかったんで、母さんに話を聞こうと思うんだけど、オレが呼び戻された理由とか知ってる?」 檀(まゆみ)「もちろん知ってるわよ。結婚するんでしょ」 とりあえず母親が知ってるということは、秘密裏に進められているわけではないんだな。 そもそも親父が自分で説明しないで母親に任せた辺りで察しはついていたが。 サブロー「その結婚について尋ねたいことがある」 檀(まゆみ)「なぁに?」 サブロー「オレはどこの誰と結婚するんだ?」 檀(まゆみ)「あら? サブローちゃんは許婚のこと忘れちゃったの?」 サブロー「忘れたというか覚えてるわけないだろ。子供の頃に少し聞いただけで、それから何事もなく過してたんだからな」 檀(まゆみ)「パパの手紙に相手のことは」 サブロー「記述してあると思うか?」 檀(まゆみ)「書かないわよねぇ」 サブロー「理解が早くて助かる」 檀(まゆみ)「まあ書きたくない理由は分かるけど」 サブロー「誰なんだ? もったいぶらずに教えてくれ。オレの知らないヤツなのか?」 そうだ。全く面識が無いやつだったら教えてもらっても仕方が無い。見合いみたいなものだと思えばいい。 檀(まゆみ)「本当に覚えてないの?」 サブロー「さっきも言ったが許嫁がいたのは覚えている。だが誰かは知らない。聞いた記憶も無い。いや、ひょっとしたら記憶を消されてるのかもしれない」 檀(まゆみ)「あらまあ大変」 サブロー「そうでもない。どのみち断わるっもりで帰ってきたんだ。誰が相手でも問題は無い」 檀(まゆみ)「よかった。相手が誰でも問題ないのね。母さんそれだけが心配だったのよ」 サブロー「いやだから断わるから問題無いと言っただけで、乗り気なら相手が誰だか気にするに決まってる」 檀(まゆみ)「うんそうね。相手のことを知りたいと思うのは当然よね」 まったく話がかみ合わない。かみ合ってそうに見えてズレてゆく。 俺は父親と同じくらい、この母親が苦手だった。 結局俺は結婚相手のことを聞けずじまいに終わった。 ;立ち絵_消去 ;-------------------------------------- ;アイキャッチ ;-------------------------------------- ;背景_縁側_夜 夕食後。やることがない俺は、縁側で庭をぼんやりと眺めていた。 スローライフ。いいじゃないか。そんなことを考えていると。 ;立ち絵_妹_通常 槐(えんじゅ)「お兄ちゃん」 サブロー「槐(えんじゅ)か。どうした?」 いつの間にか隣に槐(えんじゅ)が立っていた。 槐(えんじゅ)「あのさ、お兄ちゃんっていい年なんでしょ? 結婚とかしたくないの?」 サブロー「またそれか。したいとかしたくないという感情以前の問題だ。あと年は関係ない」 槐(えんじゅ)「でもお兄ちゃんは普通の人と結婚できないよね?」 サブロー「……そうだな。事情を知らない一般人と結婚して、間違って子供に能力が遺伝でもしたら大変だ。それくらいは理解してるよ」 そうだ。俺や妹のような能力者は一種のウィルスキャリアと同じだ。 けっして拡散させてはいけない。 俺がこの歳まで独り身でいたのは、単にモテなかったからじゃない。 ちゃんと考えあってのことだ。 槐(えんじゅ)「そこまで分かってるなら断る理由とかないんじゃない?」 サブロー「俺だけの問題じゃない。相手は人形じゃないんだ。いまどき親同士が決めた結婚とか馬鹿げてるだろ」 槐(えんじゅ)「それじゃ相手がお兄ちゃんのこと好きになれば問題無いの?」 サブロー「そうだな。あと俺の気持ちもあるな。アラフォーのオバさんとかが相手だったら断るだろうな」 槐(えんじゅ)「それはないよ。若くてカワイイ子だよ。うん」 サブロー「若くてカワイイって、オマエ俺の結婚相手が誰だか知ってるのか?」 槐(えんじゅ)「え〜と。うん。多分ね。狭い村だからさ。だいたい察しはついてるよ」 サブロー「そうか。そうだな。村人全員集めても200人程度だからな。いや、少し減ったか?」 槐(えんじゅ)「減ってないよ! まあ増えてもないけど……」 サブロー「そうか」 槐(えんじゅ)「これ以上人口を減らさないためにも、お兄ちゃんが結婚して、村に残って子供をじゃんじゃん作れば増えるよ。村興しだよ。異能軍団を作ろうよ!」 サブロー「アホか。俺たちみたいなのは増えちゃマズいんだよ」 槐(えんじゅ)「そんなことないよ。誰がそんなこと決めたの? 産めよ増やせよで能力者軍団を作って、能力を持たない人間たちを支配しちゃおうよ」 サブロー「おいこら。冗談でもそういうことは言うな」 俺はげんこつで妹の頭を叩いた。 ;SE(ゴツン) 槐(えんじゅ)「いたっ!」 サブロー「もう寝ろ」 俺は妹を置いて、十数年ぶりとなる自室へと向かった。 ;立ち絵_消去 ;-------------------------------------- ;アイキャッチ ;-------------------------------------- ;-------------------------------------- *scene_3|第三章 ;-------------------------------------- 第三章 〜不穏な影〜 ;背景_林道 翌朝のことだ。 朝というには少し遅い時間に起きた俺は、母親が用意してくれた朝食を食べた後、散歩にでかけた。 十数年ぶりに帰ってきたので知人にでも挨拶に行こうと思ったのだ。 正直知人がいたのかさえ忘れかけている。 とりあえず、歩いていればそのうち思い出すだろう。 町並みは変わらずとも人間は成長したはずだ。 ひょっとしたら俺の許嫁が誰なのか分かるかもしれない。 自宅を離れ、集落がある場所へと向かう。 途中何件かの民家があったが、農作業にでも行っているのか、人の気配は無かった。 またしばらく進むと、公民館が見えてきた。実に懐かしい。 公民館を前に懐かしんでいると、中から人が出てきた。 どうやら俺を不審者と思ったらしい。 まあそうだ。 こんな田舎で働きもせず、スーツ姿でブラブラしている男を見かけたら、不審者と思うのが当然だ。 着物姿の男「おい貴様……。き、貴様まさか! まさかとは思うがサブローなのか?」 公民館から出てきた男は俺を知っている様子だった。 見たところ歳格好は同じくらいだ。 言われてみれば俺も相手に見覚えがある。 誰だったか? 確か……分校時代……。 そうだ! 思い出したぞ! サブロー「そういうオマエこそ、雄三なのか?」 雄三とは分校時代の友人で、歳が近かったので、音はよく遊んでいた記憶がある。 歳は雄三が一っ上だが、雄三は内気で消極的だったので、ほとんど俺が振りまわしていたような気がする。 雄三「“雄三さん”だろ。なんだお前、帰ってきてたのか」 少しトゲがある口調で雄三が呟く。こいつこんな憎たらしい奴だったか? まあ歳を取れば人も変わるか。 サブロー「親父に呼び出されたんだよ。断われると思うか」 雄三「そうか。それは災難だったな。それで、なにしに帰ってきた?」 サブロー「さあな。親父とは口も聞いちゃいない。ただどうも俺は誰かと結婚させられるようだ」 雄三「けっ、結婚だと!」 能面のような雄三の顔が、恐怖とも憎悪ともっかない表情でひきつっていた。 サブロー「ああそうだ。もっとも素直に結婚してやる気は毛頭ないがな」 雄三「そ、そうか。結婚しないのか。それを聞いて安心した」 サブロー「なんだ雄三。オマエもしかして相手を知ってるのか?」 雄三「貴様知らずに帰ってき……、いや、私も知らない」 こいつ絶対知ってるだろ。その上で隠したとなると、俺に知られたくない? 誰だろう。俺たちの世代に女の子は居たか? ――村の分校時代の記憶を辿ってみる。 一年から六年までの間に女の子は数名いたような気がするが、生憎といまは目の前に居る雄三くらいしか覚えていない。 雄三は許嫁のことを知っているみたいだが、俺に教えるつもりはないらしい。 無理矢理聞きだすほど気になっているわけじゃない。 サブロー「ところで雄三。オマエいまなにやってるんだ?」 雄三「私か? 私は村長をやっている」 サブロー「村長か。そうだなオマエはそういう奴だったな」 雄三「イヤミか貴様。そういう貴様こそ何をやっている?」 サブロー「俺か? 俺は興信所でバイトしてるよ」 元々蔑んだような雄三の瞳が、更に蔑み度を増した気がする。 雄三「貴様はその歳になって、いや、それほどの力を持ちながら何をやってるんだ」 サブロー「こんな能力、これくらいしか使い道ないだろ」 雄三「ふざけるな。使い方次第では国家転覆も可能な異能をそのような……」 サブロー「大袈裟すぎるだろ。時代が時代なら俺たちはただの乱破でしかないだろ。仮に敵を残滅できたとしても統治能力なんて無いだろ」 雄三「そうだな。統治は他の誰かに任せればいい」 サブロー「結局統治を他の誰かがやるんなら、国家転覆させる必要性を感じないんだが」 雄三「そこまで深く考えるな。ほんの冗談だ。用事がすんだらさっさと帰れ」 これ以上の会話は時間の無駄だといわんばかりの勢いで、雄三は公民館の中へと戻った。 ;-------------------------------------- ;アイキャッチ ;-------------------------------------- 雄三と別れた俺は、すっかり気が削がれてしまったので、これ以上散歩を楽しむことは出来なかった。 とはいえ家に戻るのも億劫なので、そのままブラブラと村をうろついていた。 これはもう完全に不審者だな。 一時間ほど歩いたあたりで、俺はようやく異変に気付いた。歩いても歩いても村から出ることができない。 この集落には結界が張つてあるのは知っていたが、それは部外者が村に出入り出来ないようにするもので、長らく村を離れていた俺にそれが効いていたとしても、出てゆく分には問題無いはずだった。 だとすると誰かが俺をここに留めておきたいのだろう。 弱い結界なら強引に突破することも可能だが、俺を囲っている結界は術者が解除するか、結界の媒介となっている術式を記した札などを破壊する必要がある。 つまりどういうことかというと、とても面倒臭い。 つくづく不注意だった自分を恨んだ。都会暮らしで感覚が鈍っていたらしい。 村を出る前の俺なら、結界を貼ってる最中に違和感に気付いただろう。 だがいまとなっては閉じ込められて初めて気付くという有様だ。これは少々情けない。 とは言えいつまでもここに居るつもりはない。散歩はもう充分だ。 俺は久しぶりに意識を集中させ、結界のカギとなる触媒を探した。 この探知能力は都会に出ても役立たせて貰っている。 興信所の調査員のスキルとして、これほど適した能力は無い。 集中すること数秒、俺は結界を貼っている式神の呪力を感知した。 サブロー「雑な結界だな」 結界に気付かなかった自分の油断はさておき、この結界のレベルは低かった。 レベルが低いというのは隠ぺい能力のことで、結界そのものはかなり強力で、力技で破ることは不可能と言つてもよかった。 だが、そんな強力な結界もスイッチとも言える術式を記述した札を剥がすなり破壊すれば無力化する。 俺はその辺に転がっている石を拾うと、札が貼ってある神木めがけて投げつけた。 石は札に触れる前に、大きな金槌で砕かれたかのように、すり潰されながら四散した。 結界を貼る札に宿った式神が自己防衛のために壊したのだろう。 俺はその隙を逃さず、まんまと結界の外へと飛び出した。 どういう事か説明すると、式神が防衛する瞬間に結界が解かれるので、その時間を利用して外に出たというわけだ。 式神も熟練したものになると2つ3つくらい並行して術が使えたりするのだが、どう考えてもこの式神は力は強力だが術そのものの発動に時間がかかるタイプだったようだ。 自分の身を守った後に再度結界を貼るまで1分近くかかっている。 誰の式神か知らないが甘やかしすぎだろう。 結界を抜けた俺は、流石に疲れたので、一旦家に帰ることにした。 ;-------------------------------------- ;アイキャッチ ;-------------------------------------- ;---------------------------------------------------------------------------- ; 以下雑記 ;---------------------------------------------------------------------------- 女の子「」 槐(えんじゅ)「」 檀(まゆみ)「」 サブロー「」 道夏「」 勇治「」 妹名前案 いろは シア えんら 槐(えんじゅ) ココナッツ まま名前案 ゆめみ テモ いづな 檀(まゆみ) マカロン