(藍 早苗)「それじゃ……いいかい? 僕が言える立場じゃないかもしれないが、まずはとにかく気を落ち着いて。コツとしては……そうだね、眼に映るものをそのまま現在進行形として理解するんじゃなくて、すぐに過去の記憶として押し込め、それを思い出すような感じで視界に入れるんだ。そうすれば、少しだけでも冷静になれる」 (赤花美琴)「早苗さん、何だか難し過ぎるよ……でも、頑張るっ!」 (藍 早苗)「ふふっ。頑張って」 (赤花美琴)「ふぅー……ふぅー……ふぅー……」 大げさなまでの呼吸音、それは自分自身を見失う事の無いように彼女が出来るほんのわずかな抵抗。自分を客観的に意識するためのリズム。 唾が、喉を滴る。 呼吸の間隔を意識し過ぎるあまりそのタイミングを忘れてしまいそうだった。 (赤花美琴)「あ……う……」 思えば彼女の顔をこんなにも見つめたのは、初めての事かもしれない。普段は服に隠され見る事の許さぬその肌は病的に白く、橙花まゆの白磁のような肌とはまた異なる色彩だった。 敷き詰められたカサブランカは彼女の首や胸、下腹部、そして肘や膝を中心に覆い尽くしておりその全てが緋色に浸かっている。そしてどうやらその下は裸のようだった。 (赤花美琴)「酷い……酷いよ……こんな事……」 (藍 早苗)「そうだね、僕も本当にそう思う。……しかし、ここからが本題なんだ。ちょっと、ここを見てもらえるかな」 そう言って藍 早苗はカサブランカに隠された彼女の肘を指差した。例に漏れずそれは緋く染まり、その下に秘められた疵跡の凄惨さを物語る―― ――? (赤花美琴)「えっ……?」 赤花美琴は、その光景に違和感を覚えた。しかしまだ、その正体がすぐには理解出来ないでいる。 それでも、――間違いなく何かがオカシイ。 非現実と否定された安穏の先、見知らぬ感情の渦巻く惨劇の渦中で、それでもなお更なる深淵の底にある狂気が眼前にあるというのに、彼女はその理由を見落としている。 ――なんだろう? ――なんだろう? ――ナンダロウ? 血塗れの肘に、いったいどんな意味が―― (赤花美琴)「あ……」 血塗レノ、……肘? 赤花美琴「あ……あ……あ……」 途端、足の力が抜ける。ふらふらりと背を壁に付けどうにか体勢を保とうとするが三半規管が上手く働かずそのままバランスを崩し足を閉じる事も出来ず膝を立てたままそのまま座り込んでしまった。 (藍 早苗)「……気づいたかい? そうだよ、」 そして彼女は、肘を覆う百合を散らした―― その光景は、悪夢。 座り込んだままの赤花美琴が直接目視する事無く済んだのは幸せとも言えるだろう。 そう、首や胸、あるいは下腹部から出血は致命の一撃のせいかもしれない。 だがしかし、ならば肘は? 膝は? その部位から何故、鮮血が? その理由が、悪魔の所業が、儚く舞い散る百合の花束を失い曝け出される。 あぁ、……何という事だろう。 紫苑あさみの腕は、肘部分から切断されていた。 その疵口は鋭利とは言えぬ刃物で強引に、斬るというよりは叩き、擦りつけ、捻じるように皮膚組織を破壊し曳き千切ったようだった。 (藍 早苗)「……肘も、膝も、全て君の想像通りさ」 彼女は四肢を切断された状態でベッドに眠らされカサブランカと体液に彩られていたのだった。 (藍 早苗)「……もう、いいよ。このままだと刺激が強過ぎるからね……元に戻しておいた」 その声を合図に赤花美琴はよろよろとしかし懸命に立ち上がり、霞む視界と警告する頭痛を振り切ってベッドへと歩み寄る。 (赤花美琴)「う……わ……」 眼を自らの手で覆いつつも、指と指の隙間から再び彼女は紫苑あさみと対面した。 (藍 早苗)「もう一つ、……分かるかい?」 (赤花美琴)「もう、……ひと……つ……?」 (藍 早苗)「そう、もう一つ。彼女の四肢を切断した上で、更に犯人が何かしらの意図を込めてここに残していったのだろう違和感の正体、さ」 (赤花美琴)「そんなの分からない……分からないよ……何? 何なの……何でそんな事、分かるの……」 その時藍 早苗が浮かべた物憂いげな表情を、赤花美琴は知らない。 彼女は自分でも、何故こんなに冷静なのだろうと思っていた。きっと赤花さんの反応が当たり前で、自分は何かが壊れてしまったのだろうと感じていた。 (藍 早苗)「それはね……」 そう、それはきっと、あの狭い廊下で。 病的な蛍光灯の可視放射に照らされ白磁の肌を緋色に染めたあの芸術作品を見た時に―― (赤花美琴)「手足の……位置……? それってどういう……」 彼女の説明を聞いた赤花美琴は、頭に浮かんだ疑問を素直に言葉へと変換した。 (藍 早苗)「そのままの意味さ。いいかい? 彼女の、紫苑さんの手と、そうだね、足先の方が分かりやすいかもしれない。その位置を、申し訳ないがよく見て欲しいんだ」 (赤花美琴)「手と……足の、位置……?」 赤花美琴が恐る恐る言われた通りにすると、藍 早苗は言葉を続ける。 (藍 早苗)「そしたら、次は彼女の全身を見て欲しいんだ」 (赤花美琴)「ぜん……しん……? えっと……」 彼女の、全身。 安らかな表情のままに眼を閉じる顔から、露わになった胸元、緋色に染まる下腹部、そして切断された膝、最後につま先を。 (赤花美琴)「えっ……!?」 その意味を理解する前に、言葉が漏れた。 そしてその恟然の正体を確かめるため、彼女は紫苑あさみの全身を今度は一望する。 (赤花美琴)「あ、え……どうして……」 (藍 早苗)「気づいたかい? そうさ、おかしいだろう? ……彼女の身長が」 紫苑あさみの、身長。 そう、彼女は小柄な女性だった。 少なくとも今、二人の眼前で眠る少女よりはるかに背が低かったはずなのだ。 しかし現在の彼女は、おそらくこの孤島に居る少女の中で最も背が高いと言っても過言ではなかった。 (赤花美琴)「な、なんで、背丈なんて伸びるワケが……」 (藍 早苗)「そうさ、もちろんこんな短期間で背なんて伸びるわけがない。つまり、」 藍 早苗はそこで一端言葉を切ると素早く手を払い紫苑あさみの右大腿部と右下腿部の境目、血塗れのカサブランカを散らした。 (赤花美琴)「きゃ……」 (藍 早苗)「これが、……足が伸びた理由だよ」 見ると、切り離された大腿部と下腿部の間には十センチ以上の空白。 そう、彼女はただ切断されただけではなくその背丈を大きく見せるように手足を配置されていたのだ。 (赤花美琴)「どうして……そんな事……」 (藍 早苗)「さてね。それは僕にも分からないよ。ただ……」 藍 早苗はそこまで言葉にするとあとは押し黙ってしまった。 (赤花美琴)「ただ…?」 (藍 早苗)「……いや、やはりこれ以上の事は分からないな。あとは、この部屋を調べてみよう」 (赤花美琴)「うん……」 二人が翠菊透華の部屋を調べてみると、まず浴室から血の付いた石鹸が見つかった。 (藍 早苗)「という事は、……解体現場はここという事かな」 (赤花美琴)「……」 続いて二人はクローゼットの前へと足を運ぶ。 大きさから考えれば人間一人が隠れる事も可能なサイズなので注意深く、赤花美琴が部屋にあった傘を構え脇から藍 早苗が扉を開けた。 ――カチャリ。 (藍 早苗)「……どうやら誰かが隠れているという事は無さそうだね」 そう宣言すると藍 早苗は一気に扉を開け放ち服を掻き分けて詮索し始めた。 (藍 早苗)「……あった」 そして、すぐに彼女はソレを見つけた。 (赤花美琴)「ひっ……」 血糊がベトリと粘りついた、鉈とノコギリ。それらが無造作に立てかけられていたのだ。 (藍 早苗)「ここに置いて行ったという事は、……犯人はこれ以上の武器を所持しているか、それとも既に島から逃亡して携帯する理由が無くなったのか……」 (赤花美琴)「犯人……」 そう、事件には被害者がおり、そして被害者が居るならば当然加害者が存在するのだ。 (赤花美琴)「こんな酷い事……いったい誰が……?」 (藍 早苗)「……可能性としては、七人の内の誰かだと思っている」 (赤花美琴)「えっ……?」 赤花美琴は、答えを期待して先程の言葉を漏らしたのではない。それはどちらかと言えば独り言に近く、だからこそその具体的な返事に動揺を隠せなかった。 (赤花美琴)「七人て……私達の内の誰か、って……事、なの……いや、まさか……」 (藍 早苗)「しかし、基本的な情報としてこの島には僕達以外居ないはずなんだ。橙花さんの関係者は皆島から離れているし、無関係な人間がふらりと来られるような場所では無い事は赤花さんも分かるだろう?」 (赤花美琴)「で、でもっ……人が、人が死んでるんだよ!? そんな酷い事出来る人なんてっ……」 (藍 早苗)「……酷い事だなんて、誰にでも出来るさ」 (赤花美琴)「え……」 驚いて振り向いた赤花美琴を見るその眼差しは、まるで見知らぬ異種の生物のよう。 言葉は伝わらず、思いは交わらず、思考は理解出来ない。故に慄然しその身は震え、ベッドに横たわる紫苑あさみの方が余程温かみを感じられる程だった。 (赤花美琴)「ひっ……」 (藍 早苗)「……済まない、そんな事を君に伝えたいわけじゃなかった」 彼女の怯えを読み取った藍 早苗は素直に謝罪し元の雰囲気を纏う。 (藍 早苗)「だが、人間なんて日常の幕を一枚めくればそこはもうお決まりの愛憎劇さ。あまり、他人を善人だとは思わない方がいい」 (赤花美琴)「う……うん……」 (藍 早苗)「とにかく、犯人はわざわざ危険を冒してまで現場に居残りこんな手の込んだ真似をしたんだからね。理由はまだ分からないが、身内の可能性はあるだろう。少なくとも、行きずりじゃない」 (赤花美琴)「そう、だよね……」 犯人はいったい、誰なのだろうか。 もちろん、自分ではない。亡くなった紫苑さんでもない。 ――彼女に考えられるのはそこまでだった。それ以上の事は結局何をどう考えても推測の域は出られず、ただ疑心暗鬼へと陥るだけ。 (藍 早苗)「この部屋で分かる事はこのくらいまでだろう。どうやら翠菊さんも居ないようだし、隣の部屋で三人と合流しようか」 (赤花美琴)「う、うん……」 ――犯人。はんにん。ハンニン。はんにん。犯人。ハンニン。 考えても何の結論も導き出せない事は分かっているのに、それでもその言葉はグルグルと赤花美琴の脳裏を廻る。 誰が、何のために、どうやって。 彼女には、何も分からない。 分かる事はただ、この惨劇の渦中に未だ自分は身を置いているという事だけだった。 「きゃああああっ!!!」 二人が隣の部屋に行こうと振り返りベッドを背にしたその瞬間、館内に悲鳴が木霊する。 (赤花美琴)「今の声……みすずっ!?」 (藍 早苗)「何だ、どうしたっ……」 ドアを乱暴に開けると眼前に橙花まゆが居た。 (藍 早苗)「橙花……さん……」 ゆらぐ視線。揺蕩う身体。紛う事無く今眼の前に立ちはだかっているというのに二人はまるで彼女という人格を相手にしている気がしなかった。 (橙花まゆ)「どきなさいっ……」 (赤花美琴)「橙花さん……?」 するとゆれる身体の振幅が、瞬く間に収束。と同時に橙花まゆは後ろ手に隠してあったカッターで中空を薙いだ。 (赤花美琴)「っ……!」 赤花美琴が反射的に掲げた右の手のひらに、一閃。 最初は、――痛くない。 ただ、生ぬるい。それだけの感覚。 だがしかし、そのうちに垂れ堕ちた体液が自身の手首を伝いポタリ、ポタリと床のカーペットを汚し始めた頃、その疵口は鼓動に合わせた鋭い痛みで彼女を突き刺し始めた。 (赤花美琴)「痛いっ……痛い……いやぁ……!」 触覚、視覚、そして痛覚。 彼女はようやく、自身の現状を把握するのだった。 (藍 早苗)「大丈夫か赤羽さん! ……橙花っ! 君はいったい何をっ!!!」 (橙花まゆ)「……どきなさいと、言っているのです」 慄き跪いた赤花美琴を抱き寄せた藍 早苗が見上げた橙花まゆの眼は、何ものをも灯らせはしない。それは唯々純然たる黒色の瞳であり彼女はその眼を見ているだけで血の気が曳き息が上がるのを感じていた。 (藍 早苗)「ぐっ……」 気圧された藍 早苗は蹲る赤花美琴と共に通路を開ける事しか出来ない。視線を上げる事もままならないままに伏せているとやがて橙花まゆが通り過ぎ、そして彼女は翠菊透華の部屋へと入るとドアを閉め鍵をかけ独り閉じ籠るのだった。 (黄蓮みつみ)「ちょっとちょっと、大丈夫~!?」 翠菊透華の部屋が閉鎖され辺りが鎮まると状況を察した黄蓮みつみが隣の部屋のドアから顔を覗かせた。その後ろには青桐みすずが青ざめた表情で佇んでいる。 (青桐みすず)「ねぇ……美琴、大丈夫だよね……? その、ひ、悲鳴が聞こえたけど……大丈夫……だよ、ね……?」 (藍 早苗)「とりあえずは、ね……でも取り急ぎ、包帯か何か、疵口を塞げるものが欲しい。黄蓮さん、何かないかい?」 (青桐みすず)「ねぇ……ちょっと……美琴……? 何で、なんで美琴が蹲ってるの……? 震えているの……ねぇ……」 (藍 早苗)「青桐さん……」 (青桐みすず)「ねぇ! 何でよ!? 美琴、美琴ぉ……どうしたの……おてて、真っ赤じゃない……ねぇ、ねぇ……」 (黄蓮みつみ)「み、みすずちゃん!?」 (藍 早苗)「済まない、だが今は落ち着いて……」 (青桐みすず)「落ち着け!? 落ち着けですって!? 何で!? どうして!? 美琴が、美琴が泣いてるの、彼女は今泣いてるの! なのに今落ち着いてどうするの!? ねぇ美琴、誰が、誰にそんな事っ……されたのよ……」 突然の激昂に藍 早苗と黄蓮みつみは驚きを隠せない。 侵蝕。そう、この孤島に巣食う狂気は最初、きっと一つだけだった。それが段々と、一人、また一人と侵蝕され今こうして、全てを呑み込もうとしている。藍 早苗はそう直感した。 (赤花美琴)「落ち着いて、みすず……私なら、大丈夫、大丈夫だから……いつつ……」 (青桐みすず)「美琴……」 赤花美琴が浮かべた笑顔に青桐みすずは涙し彼女の眼前へと跪くとその右手にそっと自身の手を重ねた。 (黄蓮みつみ)「早苗ちゃん、あったよ! 包帯!」 (藍 早苗)「よし、……赤花さん、これでひとまずは止血を!」 (赤花美琴)「あ、……うん! みすず、汚れちゃうかもしれないからちょっと避けててね!」 (青桐みすず)「……えぇ、……うん」 赤花美琴に諭された青桐みすずは素直に場所を空け数歩離れると壁に背を預け膝を立てたまま蹲り、その様子を確認した藍 早苗は赤花美琴の手に包帯を巻き始めた。 (藍 早苗)「くそっ……くそっ……止まれ、止まるんだ……」 最初に巻きつけた包帯は、刹那に真紅へと染まる。負けじと更に巻きつけるがその浸透率を留める事が出来ず藍 早苗は焦りを感じ始めていた。 (赤花美琴)「痛っ……早苗さん、ちょっと、……い、痛い、かも……」 ズキリと傷口を舐る痛み。襞を伝い零れる鮮血。そのどれもが彼女にはとっては初体験の出来事。 (藍 早苗)「っ! す、済まない……」 そしてそれは、藍 早苗も同様だった。 (赤花美琴)「あ、うん、大丈夫、大丈夫だよ! そんな、謝らなくても……あはは……」 赤花美琴はそんな彼女の様子を目の当たりにして気恥ずかしくなり照れ笑いをする程までには精神状態を回復させていた。 (黄蓮みつみ)「あ、ほら、だんだん透けてこなくなってきたよ~!」 そして黄蓮みつみの言う通り、厚みを増した包帯はうっすらと緋色が透けて見える程度でこれ以上の出血を防ぐ事にようやく成功したようだった。 (藍 早苗)「……見た目が不恰好で申し訳ない。落ち着いたら消毒薬でも探して、包帯を巻き直した方が良いだろう」 (黄蓮みつみ)「あはは~そうだね~、このままだとお手洗いの時も大変そ~う! にゃはは!」 (赤花美琴)「そんな……確かにそうですケド……あはは……」 (藍 早苗)「……黄蓮さん、下品だよ」 (黄蓮みつみ)「うひゃひゃ、ゴ・メ・ン、ね~!」 (藍 早苗)「まったく。……それはそうと今後の事、……いいかい?」 呆れた顔を見せた藍 早苗はすぐに表情を引き締めるとそう言葉を続けた。 (赤花美琴)「うん、お願いします」 (藍 早苗)「ありがとう。まず、……全員で応接間に移動しようと思うんだ」 (赤花美琴)「応接間に……?」 (黄蓮みつみ)「大丈夫なの~? 今のドタバタで犯人が応接間に隠れたかもしれないよ~?」 (藍 早苗)「それはもちろん分かっている。だがどのみち犯人はおそらくマスターキーを持ってるんだ、だったらどの部屋に立て籠っても同じだろう? それどころか通路が狭い場所に居れば襲われた時に不利だ、だから敢えて見通しが利く応接間に陣取りたい。どうだろう?」 (黄蓮みつみ)「う~ん……鍵をかけても意味無し、か~」 (赤花美琴)「確かに、部屋に籠ってたんじゃドアを抜けられたらおしまいですよね……」 ――それに、きっと犯人は六人の中に居る。なら、その可能性のある三人と密室で過ごすわけにはいかない。 言葉にはしないが藍 早苗はそうも考えていた。 (赤花美琴)「……うん、やっぱり早苗さんの言う通り応接間に行きましょう!」 ひとしきり考えた後、赤花美琴はそう結論を出した。 (黄蓮みつみ)「そうだねそうだね~、犯人が何処に居るのか分からないなら逃げ道は増やしておくのがセオリーだね~!」 (藍 早苗)「ありがとう。青桐さんもそれで良いかい?」 ――こくん、と彼女は無言で答えた。 (黄蓮みつみ)「じゃあ決まりだね~、……っと、まゆ様はど~する~? お~い、まゆ様~?」 黄蓮みつみがドアを大胆にノックするが返答は無い。 (藍 早苗)「……あの様子だと彼女が部屋から出て来る事はないだろうね。残念だが、……僕達だけで行こう」 (赤花美琴)「橙花さん……」 (藍 早苗)「聞こえるか、橙花さん! 僕達は応接間に居る! ……気が向いたら、来てくれ」 そして一向は階下、応接間へと向かうのだった―― (赤花美琴)「……みすず? どうしたの、行くよ?」 (青桐みすず)「……あ、うん。ゴメンね、ちょっとボーっとしちゃって……今行くね」 (赤花美琴)「気をつけてね? ほら、一緒に」 青桐みすずを先導する形で赤花美琴は少し前を行く二人に眼を向ける。 ――だから、彼女は知らない。気づけない。 (青桐みすず)「……」 ――じゅるり。 その手から零れんばかりの赤花美琴の鮮血をまずは舌先で味わい、眼を伏せたまま恍惚の微笑みと共に青桐みすずが飲み干した事を――