震える身体を懸命に押さえつけながら、二人は必死に洋館へと向かう。 この惨劇を、この孤島を包まんとする頻闇を、早く皆に伝えなくては。 あれ程晴れていた空も今は無残に崩れ、それは二人がたどり着く前に雨へと変わった。 血肉に塗れた彼女達を禊いでくれたその雨は、果たして希望か絶望か――。 (ボクっ娘)「あ、お帰り〜雨降って大変だったでしょ……って、どうしたのっ!?」 開け放たれた扉の向こうから姿を見せた(クール)が全身を濡らしていたのはもちろん想定の範囲内だったが、そのを見た彼女達は思わず凍りついた。 (クール)「雨? ……あぁ、雨が降って……たのか……ありがとう、教えてくれて……」 そう返事をした(クール)の視線が、エントランスホールの中空を揺蕩っている。その表情は感情が乏しく能面の裏側のように空虚だった。そうかと思えば突然、 (クール)「うわ、うわぁあああ!!!」 普段の彼女らしからぬ絶叫と共に膝を折り地に伏せ髪を曳き千切り皮膚を掻き毟り始めるのだった。 (ボクっ娘)「ちょっと、だ、大丈夫っ!?」 (主人公)「何……何があったの!?」 (クール)「うわぁ! あぁあああ…………」 (幼馴染)「ど、どうしたの、ね、ねぇ……(女王様)さん、いったい港で何が……」 取り乱す(クール)とは対照的に、(女王様)は落ち着いて見えた。落ち着いては見えるのだが、 (女王様)「やっぱり……この島に置いておくべきでは……役立たず……」 (幼馴染)「(女王様)さ、ん……?」 やはり意志疎通出来る状態では無いらしく、しきりに独り言を呟いていた。 (主人公)「と、とにかく! しゃ、シャワーで身体を温めないとっ……このままだと風邪ひいちゃいますよっ……」 (ボクっ娘)「そ、そうだね! ねぇ(クール)、分かる? ボクだよ、(ボクっ娘)だよ! ……ボクは(クール)ちゃんを連れて行くから、(主人公)ちゃんは(女王様)ちゃんをお願い!」 (主人公)「え、えぇ! (幼馴染)、手伝って!」 (幼馴染)「うん!」 この洋館には二階個室の他に、給仕人用のシャワールームが一階にある。この状態で二人に階段を上らせるのは困難だと考えた少女達は彼女達を引き摺ってそのシャワールームへと連れて行くのだった。 (ボクっ娘)「ようやく着いたけど、ホントに大丈夫……? 一人で……入れる?」 (クール)「……」 返事は無く、(クール)は俯いたまま震えるばかりだった。 (ボクっ娘)「一人では……入れない、よね……?」 見かねた(ボクっ娘)は彼女を服を着たままの状態で浴室内に誘導すると後ろから手を回し服のボタンを一つまた一つと外してゆく。そんな行為にも(クール)は抵抗する事なく、ただされるがままに項垂れていた。 (クール)「んっ……」 (ボクっ娘)「ほら、シャワーなんだから……大人しく、ね……?」 雨に濡れたスキニーパンツは皮膚との摩擦を増し、そう簡単には下ろせない。ようやく足元まで持って来たがそこからはどうしても一度足を上げる必要だあるのは明白だろう。 (ボクっ娘)「んじゃ……右足から、ね……いくよ……?」 彼女の華奢な下腿部に手を添え持ち上げろうとするも踵が引っ掛かりスムーズに事を運べない。少しだけもどかしくなった(ボクっ娘)が足首を握り勢いつけて抜こうとしたその瞬間、 (クール)「あ……」 (ボクっ娘)「うわっ……!」 (クール)がバランスを崩し前のめりに倒れ込む。壁際に立っていた事が功を奏し反射的に手を壁に付け身体を支えるも耐え切れずに転倒した。 (ボクっ娘)「ご、ゴメンね、大丈夫っ!?」 (クール)は横になって蹲りただ惚けている。意識はちゃんとしているようだが相変わらず反応は皆無だった。浴室内は十分に広かったために彼女が転倒の際に余計な怪我をしなかったのは不幸中の幸いと言えよう。 (ボクっ娘)「ね……大丈夫、だよね……?」 再び声を掛けるが、やはり特に反応は無い。呼吸によって胸のあたりが律動しているだけだった。 ――ごくり。 ふいに届いたその音が何なのか、(ボクっ娘)が理解するまでに数秒を要した。 (ボクっ娘)「……」 ボタンを外され乱れたブラウス。スキニーパンツを足元まで下ろされ露わになった下半身。乱れた髪が眼を覆い、口元はだらしなく開いている。 そんな彼女は酷く煽情的で、先程の音はその表れなのだとようやく気づいた。 (ボクっ娘)「(クール)……ちゃん……」 こんなにも絶望的な彼女を、初めて見た。 その絶望の根源よりも、今彼女が打ち震えているのだという事実の方が(ボクっ娘)の心を塗り潰す。 (ボクっ娘)「……」 伸ばした指先が、震えている。爪先が彼女の皮膚を刺し、そのまま引き裂いてしまいたい衝動に諍えない―― (主人公)「大きな音がしましたけど、大丈夫ですか!?」 (ボクっ娘)「!!!!!!」 浴室内の扉の向こうから、声が聞こえた。シャワーは一つしかなく、(クール)が先で、仕方なしに順番待ちとなっているのだから当然の事だろう。 (ボクっ娘)「だだだ、だいじょ〜ぶ!!! にゃ、にゃはは、ちょっと足を滑らせちゃって、ででも、大丈夫だからね〜!」 その鼓動の高鳴りを悟られないようにと(ボクっ娘)は自身の頬を両の手のひらではたき火照りを祓う。 (幼馴染)「滑らせたって、怪我はないですか!?」 (ボクっ娘)「大丈夫、ないない、ないよ〜! でも(幼馴染)ちゃん達も気をつけてね〜」 (幼馴染)「は〜い!」 (ボクっ娘)「ふう。……まぁ、この体勢なら服は脱がしやすいケド」 気を取り直した彼女はまず、スキニーパンツを両足から抜き放った。ブラウスを脱がせ震える背中に(ボクっ娘)が手のひらを押し当てると、雨粒がむしろ身体を温めているのだと思える程に冷え切っている。 (ボクっ娘)「大丈夫……大丈夫だからね……」 ホックに手を掛け外す。ショーツの両端に親指を差しそのままするりと下ろした。 (クール)「あ……ん……う……」 (ボクっ娘)「大丈夫……大丈夫だから……ボクが温めてあげるからね……」 彼女はそう言葉を漏らすと自身もするりと裸になり二人の服をまとめて扉の外に投げ捨てた。 そして先に軽くシャワーを浴び身体を温め、それから上半身を起こさせた(クール)をそのまま後ろから抱き締めて仄かな体温を伝え徐々に彼女の身体を安心感とぬくもりで満たしてゆく。 (ボクっ娘)「大丈夫……大丈夫だからね……? だから、あったまろ……?」 冷え切った彼女の背中から伝わる寒気が心臓を圧迫する。まだ高鳴ったままの鼓動と相まって少しだけ眩暈を覚えた(ボクっ娘)は、たまらず(クール)の肩にもたれた。 (ボクっ娘)「ん……」 ――いい匂いが、する。 クラスの男子がたまに言っていた「すれ違う女子からいい匂いがした」がもしこの匂いだというなら、それには同意せざるを得ない。 彼女はそう堪能しながらも、(クール)の身体を隅々まで温めてゆく。