(ボクっ娘)「うわ〜、綺麗ですね〜!」 学生時代ならば誰もが心を躍らせただろう、夏休み。 彼女もまた例に漏れず、感嘆のため息をつき眼前に広がる海に思いを馳せるのだった。 (クール)「……(ボクっ娘)、それは今から行く先までとっておいた方がいい感想だよ」 ……そう、それがたとえ漁船が多く佇む極々一般的な海辺だったとしても、だ。 (ボクっ娘)「……も〜、(クール)ちゃんは細かいなぁ〜!」 (お姉さん)「うふふ、でも確かに今から楽しみよねぇ。何せプライベートビーチどころかプライベートアイランドに行けるんだから」 (ボクっ娘)「ですよね〜? ホラホラぁ、やっぱりボクの感性の方が正しいんだよ〜」 (クール)「はいはい……」 (女王様)「……皆様、おそろいかしら?」 (主人公)「えぇ、これで全員です!」 (幼馴染)「楽しみだね、(主人公)!」 (女王様)「ふふふっ、それでは、……行きますわよ、(気弱ちゃん)」 (気弱ちゃん)「……はい」 総勢七名のうら若き乙女たちはそうして(女王様)家所有のクルーザーに乗り込んでゆく。 (幼馴染)「船酔い、大丈夫かな……中学の時の修学旅行は酷かったんだよね……」 船内を見渡した(幼馴染)がぼそりとそう、呟いた。 (気弱ちゃん)「お、(幼馴染)ちゃん、あの時はた、大変そうだったもん、ね……」 (女王様)「ふふっ。なんでもこの船は最新技術であまり揺れないようになっているみたいですわ。ですからどうぞ、安心してくつろいで下さいな」 (主人公)「そう、なんだー! 実を言うと私も船には良い思い出が無いから不安だったんだよね、でも(女王様)さんがそう言うなら一安心だよっ!」 三泊四日、(女王様)家が所有するとある孤島での宿泊。元々は(女王様)が(気弱ちゃん)との旅行を計画、友人同士だった(気弱ちゃん)が(幼馴染)を誘い、折角だからと(幼馴染)が(主人公)を誘ったのだ。 (お姉さん)「うふふ、これでシャンパンなんかがあると最高だったんだけどな〜」 (クール)「……貴女はまだ未成年のはずでは?」 (ボクっ娘)「きゃはは、さっすが(クール)ちゃんはマジメだねぇ〜!」 クルーザーの船員や島には給仕人も居るのだが、それとは別に彼女たちのまとめ役として(女王様)の従姉妹である(お姉さん)が同行する事となり、(気弱ちゃん)と同じクラスで何かと彼女の面倒を見る事が多かった(クール)と(ボクっ娘)が最後に誘われての七人だった。 (主人公)「それにしても……お金持ちとは聞いてたけどまさかここまでスケールが大きいとは予想してなかったなぁ」 (ボクっ娘)「そうでしょ〜、ボクなんか同じクラスなのに毎日のように仰天エピソード聞かされちゃうもんね〜」 (クール)「それは君が単に忘れっぽいだけだよ」 (主人公)「あはは、私なんかが来てしまって良いのかな……」 (お姉さん)を除く全員が同じ高校に通っており同級生なのだが(主人公)と(幼馴染)が同じクラス、残りの四人がまた別の同じクラスであり(幼馴染)は(気弱ちゃん)絡みで他の三人とも顔見知り程度の関係ではあるが(主人公)はほとんど面識が無かった。 (女王様)「あら、構いませんわよ。(気弱ちゃん)のご友人のご友人であれば私にとって大切なお客様に変わりありませんわ」 (主人公)「あはは……どうも……」 (お姉さん)「うふふ、女の子同士、皆で仲良く過ごしましょうね〜!」 (ボクっ娘)「と〜うちゃ〜く!」 出航しておおよそ三時間、クルーザーはとある孤島へと到着した。 (主人公)「この島が……丸々個人のものだなんて……」 港には簡素な建物が一つあるだけで寂しい場所だったが彼方にはここからでもはっきりと分かる程に立派な洋風の建物が一件、見て取れる。恐らくはあそこが今回の宿泊先なのだろうと(主人公)にも容易に予想がつくのだった。 (女王様)「えぇ、島の全ては私のお父様に所有権がございますの。と申しましても今はもうほとんど使われてはおりませんけれど……」 (ボクっ娘)「えぇ〜!? もったいないなぁ、こんなにいいところなのに〜!」 (クール)「確かに同じ日本とは思えない程にここは快適な雰囲気だね」 (女王様)「お父様はお仕事が忙し過ぎるのですわ。もっとも、だからこそこの旅行を計画する事が出来たのですよ?」 (ボクっ娘)「へへへ〜、そういう意味ではラッキーだねぇ!」 (女王様)「ふふふっ……確かに、幸運な事ですわ。ここなら喧噪に悩まされず誰にも邪魔されずにゆったりとした時間が過ごせますから……ねぇ、(気弱ちゃん)?」 (気弱ちゃん)「っ!? う、うん、そうだよ、ね……た、楽しみ、うん……うん……」 急に名前を出されしかも(女王様)がその細く白い両腕を首の後ろから彼女の胸元へと廻したせいか(気弱ちゃん)は一瞬小動物のように身を震わせ頬を染めて少しだけ俯いた。 (女王様)「ふふふ……」 (女王様)の方がずっと背丈があるせいで彼女の艶めいた明るい色の髪がそっと(気弱ちゃん)の貌を包む。 (気弱ちゃん)「あ、あの、そのっ……」 透けて見える(気弱ちゃん)の頬がますます赤らみ、そのまま身を屈めた(女王様)の鼻先が(気弱ちゃん)の首すじに触れた途端、 (気弱ちゃん)「んっ……」 (全員)「!!!」 それまでの雰囲気が、彼女らを包み込む空気感が変わった。 (主人公)「っ……」 その空気感で動揺したのは(主人公)だった。明らかに友人という関係を超えたスキンシップのようにも思えたし、一方で女子同士ならあのくらいが普通なのかなという気持ちもある。異性同性を問わずカラッとした所謂【男の友情】的な友人関係しか構築した事の無かった彼女にとっては何処までがそうで何処からがそうではないのかがすぐには分からなかった。 (主人公)「あ、あの……」 しかし周囲の人間は特に否定的な反応を示していない。全員が全員、先程までとさほど変わらない表情のままで、唯一(クール)だけがやれやれといった貌を見せているだけだった。 そんな葛藤の間にも(女王様)の悪戯は(気弱ちゃん)を侵食し続け、彼女は必死にそのか細い声を押し殺そうとするも微かに漏れてしまう。それは唯々甘く濡れ震え、その無音の叫声に満足したのか(女王様)はやがて姿勢を戻し何事も無かったかのように全員を一瞥すると洋館へと道案内を始めるのだった。 (主人公)「……あぁビックリした。あの二人って、ずいぶん仲良しなんだね? 何だか意外だなぁ」 (幼馴染)「うん、よくそう言われてるみたいだけど(女王様)は(気弱ちゃん)と一番仲が良いんだよ! もう妬けちゃうくらいに、ね!」 (主人公)「……へぇ」 (クール)「……まったく、人目もはばからずによくもまぁ。(主人公)は別のクラスだから見慣れていないと思うが、彼女はいつもそうなのさ。気にしないでくれ」 (主人公)「あ、はい……」 やはり自分の感覚が間違っていたわけではないのだと一先ずは安堵するも、この先果たして自分はついて行けるのだろうかと一抹の不安を覚える(主人公)なのだった。 (お姉さん)「……うふふっ!」