登場人物 (主人公)(幼馴染)(お姉さん)(クール)(ボクっ娘)(女王様)(気弱ちゃん) あらすじ 夏休み。 学校の同級生を中心に友人や保護者代わりにいつもお世話になっている近所のお姉さんを連れ、 (女王様)の親が所有する孤島へと3泊4日の旅行にやって来た一行。 島に辿りつくまでは順調だったが到着早々、乗って来たクルーザーがエンジントラブル。 現在はほとんど使われていない別荘代わりのこの孤島にはトラブルに対応出来る設備が無く、 仕方なしにクルーザーの乗組員達は男性一名を残して緊急時用の小型ボートで本土へと一旦戻る事に。 少しばかり不安を覚える少女達だったが、島の洋館は数年ぶりの使用とはいえ今回の旅行に合わせ予め完璧に設備が整えられている。 食料、電気、ガス共に何の問題も無い。すぐに気持ちは切り替わりむしろ自分たち以外誰も居ないという そのシチュエーションに胸を躍らせるのだった。 ――そう、この孤島には乗組員である男性一名を除き、おおよそ大の大人と呼べるような人間は一人もいない。 最年長である(お姉さん)ですら二十歳にも満たず、男性乗組員は基本的に船発着所での寝泊りでそばにはいない。 数年使われていなかったとはいえ(女王様)が希望さえすればいくらでも執事や家政婦、その他召使を用意する事は可能だった。 それでもあえて誰も呼ばず、この孤島を少女達の楽園としたその理由―― 一日目の昼下がり、発着所近くのプライベートビーチ。少女達の気ままな時間。 (女王様)と(気弱ちゃん)は、少し離れた場所に設置されたビーチパラソルの下で指を絡ませ、寝そべっていた。 照り返す日差しで乾いた(気弱ちゃん)のくちびるを、(女王様)がそっと塞ぎ潤す。 ……そう、彼女は彼女を愛していた。 この地この刻、同好の少女達とそうではない少女達の、蜜月ラプソディが幕を開ける―― 一日目夜。 遊び疲れ夕食も終えた彼女達は応接間でのお喋りも一段落、洋館内の宿泊部屋へと足を運ぶ。 館内の部屋割りは(女王様)と(気弱ちゃん)が他よりも大きめの部屋で同室、その他の少女達はそれぞれ個室となっていた。 「ちなみに各部屋の扉は分厚いからちょっとやそっとでは音が漏れませんことよ? うふふふふ……」 (女王様)の不敵な笑みが少女達を見送る。 それから数時間後。静まり返った廊下を、人影がよぎる。 「あら……一人で、だなんて珍しいわね」 そう言うと(お姉さん)は自室に客人を招き入れた。 「……私が言わなくても分かっているわよね? 貴女は、……相応しくないのよ。まったく、汚わらしいったらないわね」 昼間の様子が嘘のように、(お姉さん)は侮蔑に塗れた無地味な言葉を客人に突き刺す。 客人は必死に反論しようとするが、彼女に圧倒される。 「何なら、……無理矢理にでも良いのよ? この寂れた別荘をいっその事、全員を巻き込んでめちゃくちゃにしてあげましょうか? 何せ私にはその権限があるのだからっ! ふふふふふ!」 彼女は楽しんでいる。客人を蔑み嘲笑う事を良しとしている。 そして更に時間は巡り、真夜中。 静かに館の扉が開け放たれ、――罅割れた善意が独り、歩き始めた。 そこは、船発着所。 男性乗組員が隠しておいた無線機で本土と連絡を取っていた。 「そうそう、ったく、お嬢様の冗談もたいがいだよなぁ。だいたい、俺一人以外全員引き揚げるなんてありえるかっちゅーの」 そう、全ては戯言。 クルーザーの不調も、乗組員が独りを残していったん引き揚げたのも、等しく(女王様)が用意した予定調和。 「……はいはい、じゃあ何も無ければまた明後日の夜に、連絡しますんで。お疲れ様っした。……ふう。さて、何して時間を潰しますかね……」 コンコン。 誰も来ないはずの、全てを知っている(女王様)ですら無い物として扱っているこの小さな建物に、突然の来訪者。 「……? 誰だ? (女王様)ですかい?」 男性乗組員は、この孤島に少女達以外誰も居ない事を知っているからこそ、不用意にその扉を開け放ち―― ……べとり、べとり。 予定調和の脚本を塗り潰す緋色の飛沫が、一つ、また一つ。 再び扉が閉じられたその建物は、夏の真夜中特有の喧噪の中、唯々静寂に呑み込まれていた。 翌日。皆が目を覚まし朝食の用意も進んだ頃、ふと気が付くと(気弱ちゃん)と(お姉さん)の姿が見当たらない。 (お姉さん)の部屋をノックするが反応がない。鍵がかかっており室内の様子は分からない。 特に物音はせずシャワーを浴びているという事も無さそうだ。 「そういえば最近寝つきが悪くて睡眠薬を飲んでいるって……」 (幼馴染)が呟いた。 「……まぁ、特に慌てるような日程でもないし、そのままにしておいても大丈夫だよね」 (主人公)がそう告げると、二人は応接間へと戻る。 相変わらず(気弱ちゃん)も見つからない。 誰にも気取られないようにしながらも(女王様)は激しく動揺していた。何せ同室だったにもかかわらずまったく気付けなかったのだから。 男性乗組員に直通の内線電話をするが出ない。 徐々に苛立ちを隠せなくなってゆく(女王様)。直接船発着所まで出向く事に。 メンバーは(女王様)と、念のため単独行動は止めた方が良いと提案した(クール)。残りの少女達は引き続き邸内を探す事に。 洋館を出ると、この旅行のため庭に植えてあったカサブランカがごっそりと無くなっている事に気付いた。 「いったい誰が……?」 船発着所には人の気配が感じられない。中に入るとそこには―― 「っ……!」「うっ……!」 後頭部に大振りの鉈を深々と埋め込まれ絶命した、男性乗務員の姿。恐らくは訪問者に背中を見せた瞬間に襲われ、そのまま廊下に倒れたのだろう。 (女王様)は奥へと進む。後を追う(クール)。室内は荒らされ、テーブルの上には破壊された無線機があった。 立ち尽くす二人。突如(女王様)が死体に手を伸ばした。いったい何を、と問い掛ける(クール)を無視し一心不乱に弄る(女王様)。 死体のある廊下は薄暗く(女王様)が何をしたいのか(クール)は把握出来ず唯々茫然と見守るしかなかった。 「無い……無いわ……」 「無い? 何が?」 すると照明を付けるように指示する(女王)。死体をはっきりと見る事に抵抗を覚えた(クール)だったがやがて渋々点灯した。 廊下は左右にびっちりと金属製のラックが備え付けられ物置場を兼任している。客人を出迎える施設ではないため照明は簡易的なもので昼光色ながら仄暗い。 天井から降り注ぐその頼りない間接照明に照らされ浮かび上がる血塗れの(女王様)はまるで展覧会の彫刻のよう。 濡れた髪、その体液が凝固し肌に貼り付く不快感をものともせず死体をなおも掻き回す(女王様)。 「何が……無いんだい……?」 まるで足元の血だまりを介して(女王様)へ捧げられるかのように足先に向け(クール)の血の気が引いてゆく。 それでも気力を奮い立たせようやく漏らした問い掛けに、(女王様)はようやく答えた。 「……この方が所持していたはずの、邸内のマスターキーが、よ」 その絶望的な言葉は、しかし何処か喜びに震えているようにも見えた―― 震える身体を押さえつけながら、二人は洋館に向けて歩き出す。この惨劇を、この孤島を包まんとする頻闇を、早く伝えなくては。 天候が崩れ出し、やがて降り注ぐ雨。天の恵みで血の穢れを禊いだ彼女達を、しかし絶望は逃さない。 シャワーを浴び着替えた(女王様)と(クール)。 事情を説明され動揺する少女達。 鍵束が保管されている管理人控室に行くと、どうやら持ち出された鍵は無いようだった。念のため、全てを持ち出す少女達。 はぐれないように全員で(気弱ちゃん)と(お姉さん)を探すが一向に見つからない。 天候は回復せず雨は勢いを増し、外の捜索は難しいだろう。 「(お姉さん)の部屋の鍵がかかっていて入れないの」 (主人公)がそう伝えると(女王様)は自身が肌身離さず持ち歩いているもう一つのマスターキーを取り出した。 皆でその部屋へと向かう。 鍵を開けると、そこには息を飲む光景が。 洋館の庭から奪い取られたカサブランカがベットに横たわる(気弱ちゃん)を包み込んでいる。 その表情は安らかだったが、狂い咲いた彼岸花のように緋く染まる床一面のカサブランカが彼女の命を吸い尽くしていた。 「いや……いや……いやぁあああっ!」 絶叫する(女王様)。他者に初めて見せた悲嘆。膝を折り蹲る少女達。 嗚咽と沈黙が支配する百合の密室で、ふと(主人公)がとある事に気付いた。 「えっ……?」 「……キミも気付いたのかい?」 隣にいた(クール)が囁く。 横たわる(気弱ちゃん)を包み込むカサブランカは、彼女の首や胸の辺り、下腹部、そして肘や膝を覆い尽くしそして緋色に染め上げられていた。 恐らくは胸や下腹部の彼岸花を散らせば彼女の死因が分かるのだろう。 そうであるならば、肘と膝にはどんな意味が? ――その違和感に、(主人公)は吐き気を催す。 「ま……さか……」 「……直接は見ない方が良い。でもたぶん、……キミの想像通りだろう」 (主人公)はもう一度、ベットに視線を戻した。 ……明らかにおかしい。 (気弱ちゃん)の身長からすれば、頭頂部から足先まであそこまで占めないはずだ。 そう、……彼女は今、本来の身長から10センチ以上成長していた。 もちろんそんな事がありえるはずもない。 あぁ、その不可思議と違和感の正体は―― (クール)は本棚にあった厚手の本を一冊持ち出すとベットに近づき、半狂乱の(女王様)を振り切って本来(気弱ちゃん)の膝があるであろう位置に背表紙を下にした本を花の上から置いた。 すると本は真深く沈み込み――そのままべちゃりとマットに触れた。 「え……あ……」 徐々に、その意味を理解する少女達。 そう、犯人は(気弱ちゃん)の膝と肘を切断しそれぞれの延長線上に配置した後、カサブランカを覆い隠すように散りばめ強制的に身長を大きく見せていた。 わざわざそんな事をした意味は、誰にも分からなかった。 そして、部屋の主である(お姉さん)の姿は何処にも見当たらない。 探してみると浴槽には血の付いた石鹸、そしてクローゼットからは血糊がべったりと粘りついた鉈とノコギリが見つかった。 はたして(お姉さん)は被害者か、それとも(加害者)なのか――? 錯乱した(女王様)は皆を部屋から追い出し(お姉さん)の部屋に閉じ篭る。 (主人公)は全員で一緒に居た方が良いと提案するが(クール)が説得は無駄だと放っておく事を提言、仕方なくその場を全員が離れる。 応接間でぐったりとする残された少女達。 犯人は恐らくマスターキーを持っている。この屋敷の何処に隠れていても無駄なのだ。少女達に出来る事は、ただ集団で身を守る事だけだった。 その日の夜、(ボクっ娘)がおもむろに立ち上がり(女王様)の居る部屋に行くと言い出した。 時間も経ったしそれなりに落ち着いただろう、やっぱり皆一緒にいた方が良いと提案。だが(クール)は応接間を離れる事を拒否、仕方なく(幼馴染)が(ボクっ娘)と共に向かう。 ドアをノックすると「どうぞ」と落ち着いた声。鍵が開いており、恐る恐る中へと入ると先程部屋で発見された鉈と戯れ全身を再び血に染める(女王様)の姿が。 鉈から滴る血液と戯れていた理由は、きっとこれは(気弱ちゃん)のだから。 鍵をかけていなかった理由を聞くと、私を殺すつもりで犯人が入室したら逆に私が犯人を殺してやろうと思ったからだという。 もしこんな状況でこっそりと人目に付かず私の下を訪れる人間が居ればそれが犯人で間違いないのだから、との事だった。 途端に殺意を剥き出しにする女王様。 「それで……犯人は誰なのかしら? 貴女? それとも後ろの方? それとも……二人とも、かしら?」 鉈を振り上げ迫る(女王様)。それに対し真っ向から(ボクっ娘)が迎える。 ボクの知ってる(女王様)はそんな事しない、とても優しい人ですから、と笑顔で少しずつ近づいてゆく。 その様子に錯乱しながらも(気弱ちゃん)の姿と重なり、最後には抱き締めて迎える(女王様)。あとはもう大丈夫、と(ボクっ娘)は振り返り目配せをした。 応接間で押し黙る(主人公)と(クール)。 しばらくすると(幼馴染)が一人で応接間に戻って来た。 一人で来るだなんて危ない、(主人公)がそうたしなめると 「でも、……(ボクっ娘)ちゃんがどうしても二人で居たい、慰めてあげたい、って言うから……」 と告げる。 まぁとにかく無事で何より、と三人は今日これからをどうするか話し合う。鍵を閉めても役には立たないが少し広めの客室――(女王様)と(気弱ちゃん)が宿泊していた部屋に 三人で立てこもりドア前に物を積んでバリケード代わりにしようと提案、そのための食料と武器確保するという話になり厨房へと向かう事に。 (女王様)と(ボクっ娘)が会話しているシーン。 (女王様)は自分から積極的に話題を振ってはこないが(ボクっ娘)がどんどんと話をしてくるので場が鎮まる事は無い。 その内に夜も更け初め、もう今日は横になりましょう、シャワーに入ってきたら、と(女王様)が初めて提言。 嬉しくなった(ボクっ娘)は一緒に入りたいと提案し、準備して二人で湯船に浸かる。 元々一人用なので少し狭いが、それでも(ボクっ娘)は幸せを感じていた。 密かに(女王様)の事を慕っていた彼女にとって、まるで夢のような時間だった。 ――まるで? ……違う。 全ては、夢。 夢そのもの。 全ては今わの際に彼女が見た、――幻。 翌日、三人が目を覚ますと妙に煙たい。 何事かと(クール)が窓から階下の様子を伺うと真下の部屋から煙、ちらちらと炎も見え隠れしていた。 慌ててバリケードを開放し部屋を飛び出す三人。(女王様)の居る部屋に向かうと鍵はかかっておらず、浴室には(ボクっ娘)の溺死体。 部屋のベットからは(気弱ちゃん)の遺体が消え、(女王様)は行方不明。 階下の火元に向かうとそこは使用人の控室。室内はもはや手のつけようがない程に炎に飲み込まれておりこのままでは屋敷全体に広がるだろう。 更に応接間や厨房からも火の手が上がっており屋敷の全焼は避けられない。 仕方なく三人は屋敷を放棄し男性乗務員の無残な遺体がある船発着所へと向かう。 無事に辿りつき中に入る。(クール)が一度見た光景だからと先頭に立ち照明を付けるとそこには男性乗務員の遺体と交合うように身体を重ねている、――(お姉さん)の遺体。 「そんな……馬鹿なっ……」 戦慄する(主人公)と(クール)。 いったい犯人は誰なのか――? すると不意に声が響いた。 「……まったく、汚らしいわね」 その声の主は(女王様)。 声が響くと同時に(クール)が倒れた。部屋の陰に隠れていた(女王様)に大振りの鉈で殴られたのだ。 「(女王様)……? 何故こんな事?」 主人公が叫ぶ。犯人は彼女だったのかと恐怖に苛まれながらも必死に問い詰めようとしていた。 「私はまだ誰も殺してないわよ。まだ誰も、ね」 「そんな事……じゃあいったい誰が犯人だって言うの!?」 (主人公)はそう言いながら、徐々に背後から這いよる闇を感じていた。 「……どういうつもりなの? (女王様)」 普段からは想像も出来ない程に冷たい声が漏れる。それは(幼馴染)だった。 「どういうつもりも何も……復讐よ。私は一族に復讐する事に決めたの」 「復讐……?」 一日目夜、(お姉さん)の部屋を訪れたのは(気弱ちゃん)だった。 「あら……一人で、だなんて珍しいわね」 「は、はい……(女王様)はた、体調が優れない、と、すぐに寝ました……」 実際のところは(気弱ちゃん)が飲み物に睡眠薬を入れ深い眠りにつかせたのだった。 そうまでして(気弱ちゃん)が(お姉さん)の下を訪れたわけ。それは(女王様)との関係についてだった。 実は(お姉さん)は(女王様)の親戚。由緒ある家系に生まれ女性でありながら次期当主の地位にある(女王様)が同性愛者だという事は由々しき事態。 (お姉さん)はお目付け役としてこの旅行に同行したのだった。そしてその事に(気弱ちゃん)も気付いている。 二人の間に巻き起こる、静かながらも激しい感情の入り混じる口論。そしてその末に―― 「はぁ……はぁ……はぁ……」 殺してしまった。いや、彼女の胸に突き刺さるそのナイフを見るに……(気弱ちゃん)は最初からそのつもりだったのかもしれない。 ともかく、人が死んだ。自分が殺してしまった。もう、もう二度とあの日々には戻れない―― 「(気弱ちゃん)……本当に良いんだね……?」 そして(気弱ちゃん)には協力者が居た。それは(幼馴染)。 (幼馴染)もまた、(主人公)との関係に悩み苦しんでいた。表立った事は無かったが二人は共通の悩みを持つ親友だったのだ。 同じ悩みを持った二人はこの孤島にて残酷な、そして吐き気がする程に甘い感情に包まれた計画を現実のものにしようとしていた。 深夜。予め二人に睡眠薬を盛られていた残りの少女達は、遊び戯れ疲れた事もあり少々の物音では起きてこない。 そして彼女達は、館の扉を開け放ち船発着所を目指した―― (女王様)は自分と(気弱ちゃん)の交際を邪険にし夏休みの旅行にまで(お姉さん)を使って邪魔しようとし、結果的に(気弱ちゃん)の命を奪う事となってしまった今現在の全てが許せなかった。 一族が(お姉さん)を派遣しなければ、(気弱ちゃん)を脅迫しようとしなければ、誰も傷つかずに済んだのに、と。 「だから復讐を決めたのよ。この孤島を舞台に、一大ミステリーを披露してあげるわ。館は焼け落ち、そこから発見される焼け爛れた遺体の数々、船発着所には私の一族の息がかかった者の惨殺死体。 例え一族と言えどももはや隠ぺいは不可能。犯人と動機だけが分からないままに積み上げられた死体を見て下賤の者どもは様々な想像を膨らませてゆくのよ。事件としては収束しても彼等の妄想に終わりはない。 こんな一族、永遠に呪われた存在として未来永劫囁かれ続ければ良いんだわ、あはははは!」 「そんな事……(主人公)を殺すだなんて……ワタシが絶対に許さない!」 激高する(幼馴染)。その咆哮は、だがしかし(女王様)の狂った思想そのものを否定する言葉ではないように(主人公)は感じた。 「ふふふっ。貴女がそんな事言えた立場なのかしら?」 「……どういう事?」 胸騒ぎを懸命に押さえながらも主人公は問い掛ける。 「ですから、……これまでの殺人は全てそちらの(幼馴染)の仕業、と申し上げておりますのよ」 その事実で反射的に振り向いた(主人公)を迎えたのは満面の笑みを浮かべた(幼馴染)だった。 「(幼馴染)!? ……どうして……」 「どうして、って……」 そしてこれまでの経緯を語る(幼馴染)。 (お姉さん)の脅迫に思わずその手を血に染めた(気弱ちゃん)。自分は汚れてしまった、もはや(女王様)と同じ世界では生きられない事に絶望し(幼馴染)に自分を殺してくれるよう懇願した。 自分ではどうしても勇気が出ない、(幼馴染)ちゃんなら大丈夫、きっと出来るよ、……だから、お願い。 (気弱ちゃん)はそう言っていた。 もしかすると、薄々彼女の異常性に気付いていたのかもしれない。 ともかく、(幼馴染)はその通りに(気弱ちゃん)を殺害しせめてもの慰めに彼女の夢の一部を叶えてあげた。 一日目の夜、応接間でのお喋り。 何と言う事はない、身の上話や恋の話、勉強の話、学校の話―― そんな中、(気弱ちゃん)は確かにこう言っていた。 「皆、身長、が、高く、て、羨ましい、です……私、も、せめて……(女王様)くらい大きくなり、たいです……」 「あら、私と同じくらい? どうしてかしら?」 (女王様)は口元にだけ微笑みを浮かべていた。真意を見透かされた(気弱ちゃん)は彼女の視線に絡み取られ言葉が続けられない。 「え、っと、だって、その……」 「……まぁ確かに、(気弱ちゃん)は平均身長から見てもだいぶ背が低いね。適度な運動をおススメするよ」 (女王様)の一瞥を無視しアドバイスする(クール)。 そうそれは、何て事のない日常の会話。でも、確かな彼女の夢だった。 (お姉さん)の遺体は最初からこの船発着所に隠していた。彼女には何の同情心も無い。最初に顔を合わせた時から唯々鬱陶しいだけの女だった。 (ボクっ娘)に関しては、(女王様)に無邪気に近づき(気弱ちゃん)を失ってぽっかりと空いた穴を埋めようとしていたのであまりに(気弱ちゃん)が可哀想になり発作的に殺害。 (女王様)と(ボクっ娘)、(幼馴染)が三人で(お姉さん)の宿泊部屋に居た時、目配せするために彼女が振り向いた時に鈍器を叩き付けた。 驚く(女王様)に事の真相を激白。 全てを知った(女王様)は(幼馴染)を咎める事無く、貴女は戻りなさい、ここからは私がケリを付けます、とそのまま応接間に返した。 館に火を放ち残りの少女達も皆殺しにする事を決意した(女王様)は、(気弱ちゃん)の遺体を焼くわけにはいかないと部屋から運び出す事に。 (ボクっ娘)の遺体は、自分に好意を抱いてくれた事に感謝の念は感じつつも、やはり自分には(気弱ちゃん)しか考えられない。 でも、せめてもの恩返し――もし運が良ければ綺麗なままの姿で警察に見つけてもらえるでしょう、と遺体を火除けの水を張った浴槽に沈めた。 そして(主人公)達を待ち伏せするために島内で唯一無事な建物である船発着所へと足を運び、(お姉さん)の遺体は汚わらしい者どもの象徴として男性乗務員の遺体に縛りつけた。 「……話はここまでよ。あとは貴女達を殺し飾りつけこの孤島を終わる事のない永遠の謎として葬るだけっ……!」 鉈を振りかざし襲い掛かる(女王様)。すると(主人公)の背後から(幼馴染)が飛び出しガードする。彼女の手には鉄パイプ。 この通路の左右にある金属製のラックの陰に具財として置いてあったのだ。 室内にて互いに武器を振り回し火花を散らす二人。 (主人公)はどうする事も出来ずにただ震え惚けていた。 ふと、足元に感触。(クール)だった。彼女はまだ生きている。 我に返った(主人公)は(クール)を抱え部屋を出て通路まで戻った。ようやく立ち上げれるくらいまでには回復した(クール)。 金属製のラック内にある工具を武器として持ち出し建物から出ようとすると不快な風切り音が背後から一瞬で迫る。 それは怪我で反応の遅れた(クール)に襲い掛かりそして彼女の胸部に突き刺さるのだった。 「あ……あ……あ……」 それは包丁だった。恐らくは何処かに隠してあったどちらかの武器だったのだろう。 恐怖で限界まで見開かれた眼で部屋の方を見る。浮かび上がるシルエットは――(女王様)だった。 爛々と輝く眼、口角を吊り上げ三日月のように歪んだ口でこちらへと歩み寄る(女王様)。 そしてそのまま――膝を突き地へと伏せた。 逆光でそれまで目視出来なかったが胸元にはまた別の包丁が突き刺さっておりそれが倒れた反動で貫通し背中より突き出ていた。 「ようやく……二人きりだね……」 部屋から(幼馴染)が出て来る。 (女王様)を足蹴にし(クール)を一瞥して真っ直ぐに(主人公)の下へと歩み寄る。 「ねぇ……このまま、帰ろう? 二人で」 (幼馴染)が提案する。これだけの事をしたというのに、彼女の眼はいつも通りの優しさすら帯びていた。 「大丈夫、(主人公)は(女王様)の仕組んだ謎の一部になんてさせないから……この島での出来事は、全部誰かのせいにしちゃうから。だから、(主人公)さえ秘密にしてくれれば、……ダメ、かな……?」 瞳を少し潤ませ上目遣いで(主人公)の胸元に飛び込み懇願する(幼馴染)。 「(女王様)から(主人公)を守ってあげたのは、ワタシだよね……?」 確かにそれは一理あるだろう。彼女が居なければ今頃自分がどうなっていたのか見当も付かない。 「嘘をつくのが嫌なら、……このまま二人で、誰も知らない何処かまで逃げたってワタシは構わないよっ……!」 もはや彼女は、(主人公)と一緒に居られるのなら方法や手段は問わないのだろう。